長野地方裁判所 昭和43年(レ)20号 判決 1969年3月31日
控訴人 松本興産金融有限会社
右代表者代表取締役 犬飼寿雄
右訴訟代理人弁護士 熊沢賢博
被控訴人 篠原国雄
主文
本件控訴を棄却する。
訴訟費用中上告費用は被控訴人の負担とし、控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
≪省略≫
理由
一、請求の原因事実については、当事者間に争いがない。
二、そこで、抗弁について考える。
1、本件土地を含む前記一七〇坪の土地がもと関口志げの所有であったことおよび右土地につき昭和三二年三月一三日受付で同年一月二九日売買を原因として志げから宮下袈裟五郎への所有権移転登記がなされていることは当事者間に争いがないところ、右につき被控訴人は、宮下広が右土地を関口志げから買い受け、その後広から袈裟五郎へ譲渡したと主張するのに対し、控訴人は袈裟五郎が直接志げから買い受けたと争うので、まずこの点について判断する。
≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。右一七〇坪の土地については、志げの代理人としてその夫関口英児と広との間に昭和二二年一二月一日ごろ売買契約が締結され、そのころ右代金三万円が英児に支払われたが、英児の死(昭和二六年)後志げは、右売買は英児の無権代理行為であると主張し(この主張は右売買契約書が発見され、既に代金も授受されていることが判明したので志げも契約を承認せざるをえなかった。)また土地の価格が契約後騰貴していることを理由に移転登記手続の要求にたやすく応じなかった。そこで、広および主として契約締結の衝に当った広の父袈裟五郎は、志げを相手方として右土地につき広への所有権移転登記を求める旨の即決和解の申立を上田簡易裁判所へ起し(同裁判所昭和三二年(イ)第一号)、その結果昭和三二年一月五日両者間に(1)志げが広に対し右土地につき昭和二二年一二月一日付売買を登記原因とする所有権移転登記手続を昭和三二年一月七日限りすること、(2)広・袈裟五郎は連帯して志げに対し売買代金七万円を支払うことを内容とする和解が成立した。ところが、袈裟五郎はその後広に対し右土地を袈裟五郎名義にするよう求め、広も袈裟五郎からは自己の家屋の建築資金や右売買代金七万円の一部を負担してもらうなど何かと援助を受けていたことからこれを了承し、登記簿上は志げから直接袈裟五郎宛に移転登記することとし(したがって、前記和解調書を債務名義として使用することをせずに)、志げの諒解を得て売渡証書(右証書には志げが昭和三二年一月二九日袈裟五郎へ右土地を二五万五〇〇〇円で売渡す旨の記載があるが、右金額で売買する旨の合意もなく、また右金員の授受もなかった。)など右登記に必要な書類に同人の捺印をもらい、その結果昭和三二年三月一四日志げから袈裟五郎へ所有権移転登記がなされた。
≪証拠判断省略≫
以上認定の事実からすれば、右土地一七〇坪は、まず広が昭和二二年一二月一日英児を通じて志げからこれを買い受け、志げが遅くとも和解成立時である昭和三二年一月五日右売買を追認したことにより広は右土地所有権を右売買時にさかのぼって取得し、次いで右所有権は昭和三二年一月二九日ごろ広から袈裟五郎へ譲渡されたと認めるのが相当である。
2、次に控訴人主張の地上権について考える。
≪証拠省略≫を総合すれば、広は、被控訴人との間に昭和三一年八月二四日ごろ前記一七〇坪の土地のうち本件土地を含む北東側一三〇坪につき、建物所有を目的とし期間三〇年地代年額一二〇〇円とする地上権を設定する旨の契約を締結し、そのころ被控訴人は本件土地上に本件建物を建築してその所有権を取得したことが認められ、右認定に反する証拠はなく、本件建物につき同日付で被控訴人名義の所有権保存登記がなされたことは当事者間に争いがない。
3、そうすると、広に対して地上権を有する被控訴人は、広から本件土地の所有権を承継取得した袈裟五郎および同人から所有権を承継取得した控訴人に対し、建物保護ニ関スル法律第一条によりその地上権をもって対抗できるものというべきである。
4、控訴人は、同条にいう地上権者は土地所有権につき対抗要件を具備した者から地上権の設定を受けた者でなければならないのに、広の土地所有権の取得は登記を欠き控訴人に対抗できないものであるから、同人から地上権の設定を受けた被控訴人はたとえ本件建物につき登記があっても右地上権をもって控訴人に対抗できないと主張する。
しかしながら、前記認定のとおり、袈裟五郎は広の同意を得て志げから中間省略の方法により所有権移転登記をうけたものであるから、広が被控訴人との間で設定した地上権に基き被控訴人の建物について保存登記が存する以上、右地上権の負担を承認せざるをえない(裏からいえば、袈裟五郎は広の登記欠缺を主張できない)立場にあるものというべく、ひいては、袈裟五郎から所有権移転をうけた控訴人においても被控訴人の地上権を承認せざるをえない(広の対抗要件の欠缺を主張できない)というべきである。
従って控訴人の右の主張は採用の限りでない。
三、以上のとおりであってみれば、被控訴人の抗弁は理由があるから原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。
よって、民事訴訟法三八四条により本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき同法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西山俊彦 裁判官 落合威 清野寛甫)
<以下省略>